経営者インタビュー

なぜサイバーの人事部は強いのか?―サイバーエージェント人材科学センターの「HR tech」✕「対話主義」

cyberagent
IT企業の中でも人事施策の質・量で有名な株式会社サイバーエージェント。人事部の取り組みについてベンチャー業界のトップランナーと言っても良いかもしれない。近年のHRとビッグデータ、人工知能などを掛け合わせようとする、HR techトレンドの中でもサイバーエージェントは人事データを使って人事配置を検討する取り組みを他社に先駆けて開始している。今回は、2年前に人事本部内に設立された「人材科学センター」の向坂真弓さんに「なぜサイバーエージェントの人事部は強いのか?」ざっくばらんにお話を伺った。

1.より最適な人事配置を行うための「ヒトグラフ構想」とは?

サイバー 取材6

— HR techの潮流の中で生まれた、サイバーエージェントの「人材科学センター」の取り組みを教えてください。

サイバーエージェントはインターネット産業に軸足を置き、多伎にわたって事業を展開しています。サイバーエージェントグループの社員数は4000名で、人事部門としては全社人事に40〜50名所属しています。また、この全社人事とは別に広告事業やメディア事業など各部門の事業部人事が80名ほどいます。同規模の会社と比較しても、人事メンバーにかなり人員を割き、組織づくりに投資をしています。

私たち「人材科学センター」はデータを使ってより最適な社員の「適材適所」を実現するために設立されました。入社面接から配属後のパフォーマンス、キャリア志向や現在のコンディションまであらゆる人事情報を一元管理し分析することで、客観的なデータを意思決定の材料に加えることができるはずです。より高度な「適材適所」が実現するのではないかということで「あした会議※」で誕生しました。具体的には「GEPPO」という人事システムを開発し、全社員に月1回のアンケートを実施しています。

(※あした会議=経営陣を中心としたチームで、サイバーエージェントの「あした(未来)」に繋がる新規事業案や課題解決案を提案・決議する会議です。年に2度開催し、この会議から毎回複数の事業立ち上げが決定しています。)

—人材科学センター発足当初からある、「GEPPO」の内容を詳しく教えてください。

必須項目として毎回、その月の自己評価を「快晴・晴れ・曇り・雨・大雨」で回答する項目を設けています。また、その時々に応じた質問を投げかけて人事データを取り、人材配置に役立てています。
運営は「キャリアエージェント」という適材適所専門チームが行っており、私たち人材科学センターのメンバーも兼務しています。

GEPPO

—GEPPOを通して得られた効果はどのようなものでしょうか?

こちらからの設問だけでなく、フリーコメント欄もあるのですが、それをもとに人事でコミュニケーションをとるなど、GEPPOに書くことできちんと声が届くんだということが浸透してきました。「今後このような仕事をしていきたい」といった宣言する社員もいれば、逆に悩みを書く社員もいたりと、GEPPOを通して社員の意思やコンディションもより把握しやすくなり、フォローが必要な人材にアプローチもしやすくなっています。

逆にGEPPOのコメントを元に面談をしたところ「今の部署・仕事が一番合っていることがわかったのでここで頑張ります!」と翌月コメントを記入する社員もおり、必ずしも異動を推進するだけでなく、更にその部署でドライブして頑張るんだと気づくきっかけにもなっています。

2.サイバーエージェント人事の、現在と今後

サイバー 取材2

ー人材科学センター発足による成果とは何でしょうか?

現在、私たちでは「ヒトグラフ構想」を掲げており、これは何かというと社内のあらゆる人事情報を一元管理しようというものです。具体的には、以下の2つの取り組みです。

まず、社内でバラバラに存在する人事データを整理して、いつでも取り出せて使える状態にするということ。入社時から現在の配属まで、一人一人の社員のパフォーマンスや周りからの評判データといった情報まで、これまで一元管理できていなかったものを、人材科学センターでいつでも使えるようにしました。

また、2つ目はこういった情報を分析し、レポートを作って経営や事業責任者に人事施策として提案するということです。単なるファクトをそのまま渡すのではなく、分析に基づく施策として提案することで、現場が判断しやすくなります。

その結果、人事配置に伴う意思決定がよりスピーディーに行えるようになりました。

—この「ヒトグラフ構想」の導入も、より高度な「適材適所の人材配置」を達成するためなのでしょうか?

そうですね。元々の当社の人事の考え方として、サイバーエージェントのカルチャーに合った人材を採用して、適した部署に配置する、そしてその人に合った仕事や役職を与えることで、社員は現場で自然と成長できるという考え方があります。

ですから当社では新卒入社後の研修という研修がほぼ無くて、例年の新入社員研修は、入社後約1〜2週間程度です。その代わり、配置した後のコンディションをしっかり見るようにしています。初期の配属が合わなかったらすぐに配置転換をするなど調整を加えています。

—人材科学センターの今後の展望は

社員一人ひとりを理解し、実際に人事がアクションを起こしていくところに時間を割けるようにしたいですね。今まで人力で情報を集めたり情報整理してきた部分をスリム化することで、労力をかけるべき部分にかけられるようにしていきたいです。

—サイバーエージェントの人事面談のコツを教えてください

「GEPPOで本当に本音を書いてくれるの?」とよく他社の方に聞かれます。確かに人事が見ていると思うと、社員もなかなか本音を書いてくれなさそうですよね。私たちとして意識していることは以下の3つです。

まず、発足当時から、「分析されているという心理的負担を社員にかけないようにする」「人事異動や評価を通して社員に還元させていく」ことを意識しています。

2つめは、GEPPOに書かれたことは上司にも共有せず、見られるのは書いた本人と私たちキャリアエージェント(人材科学センターも兼務)のメンバー、あとは役員のみです。これはGEPPOの画面上にもきちんと明記しているので、書きたいことを書きやすいと思いますし、自分の仕事だけでなく会社に対して思ったことを書いてくれる社員もいますね。

最後に、サイバーエージェントでは、組織カルチャーとして「対話を重視する」ことが根付いています。このカルチャーをつくるために、経営陣が率先して体現しています。ほぼ毎日、他社の経営者に驚かれるくらい、役員たちは社員とランチや会食に行き、現場の社員と接触する機会を持っています。経営トップが社員の問題意識には敏感なので、言いたいことが言える、風通しの良さができているのかもしれません。

人事異動は、本人の意思より会社の都合が優先させられるケースが、どの会社でも多いと思いますが、サイバーエージェントではほとんどありません。半年に1回の人事との面談や月に1回の現場の上司との面談、またGEPPOを通して本人のキャリア志向を人事が聞き取り、なるべくその意思を反映させる人事異動を実現しています。

3.サイバーエージェントの組織作りの強みは、どこから来ているのか

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—サイバーエージェントの社員は「自社愛が強い」方が多いと感じていますが、それも「人を大切にする風土」から来ているのでしょうか?

当社はトップダウン的経営の会社ではないので、社員も盲目的に自社を愛しているという感じではないですね。一番は、会社が成長できる環境であること、またそういった環境を作るために経営陣がコミットしていることを感じるからではないでしょうか。自分の意思が尊重され、手を挙げれば必ずチャンスがあります。

それがきちんと社員にも伝わっているからこそ、社員も会社に貢献したいと思うのではないでしょうか。他の会社さんからも「そんなに社員の声を聞くんですか」と言われることもあります。それだけ対話をしているというのもありますし、対話の際も「本人の意思を吸い上げる対話」を心がけています。また実際の人事異動を決定するときも、役員から「本当に異動する本人はその仕事をやりたがっているの?」と聞かれることもあります。そもそも人事異動は会社の都合によってなされることが多いと思いますが、これも一般的な会社と比べるときっと珍しいことですよね。

—「採用」の際のポイントはありますか?

採用時のコンセプトに、「素直で良いやつを採用する」という考えが根底にあります。中途採用だと特に即戦力を求めると思いますが、私たちは新卒はもちろん中途採用であっても「カルチャーフィットする人材」の方を重視しています。私たちがスキルフィットではなくカルチャーフィットを大切にする理由は、サイバーに合った人材を採用して適した部署に配置し、その時々にあった仕事と責任を与えられれば、自ずと社員は成長できると考えているからです。そのためにサイバーエージェントには、研修制度がほぼありません。

実際の面接は現場の社員が担当しており、かなりの数の社員が稼働しています。またサイバーエージェントに入社希望の方には、とにかく多くの社員に会ってもらうようにしています。

—なぜそんなに全社一丸となって採用を頑張るのでしょうか?

「採用には全力を尽くす」は、当社のミッションステートメントのひとつでもあります。同規模の会社と比べても人事に関わる人数が非常に多いのも、社長である藤田が人・組織を重視しており「優れた人事戦略というのは、優れた経営・事業戦略と同じくらい価値がある」と言っているからです。

社員が採用に携わっても特にインセンティブはなく、ベストリクルーター賞として表彰されるくらいですが、社員自身も学生時代、同じように人事だけでなく多数の社員との面接を経て入社したので、自分も恩返ししようという思いで社員も採用に協力的です。

4.中小企業やベンチャー企業でも、サイバーエージェントの取り組みを実践して組織力を高めるには?

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—ここまでは、実際にサイバーエージェントさんが取り組んできていることをお伺いしてきましたが、それらの取り組みを中小企業やベンチャー企業で実践する際のコツや注意点はありますか?

どんなに完璧な人事制度やシステムがあっても、それが運用されないと意味がありません。サイバーエージェントの人事部では「制度:運用=2:8」が合言葉になっています。新しい人事制度を立ち上げても、運用されるまで徹底的に後押しをして、運用が叶わない制度については思い切って捨てます。この考え方は、会社規模に関わらず応用いただけるのではないでしょうか。

また人事データの分析というと、大きな発見や法則を見つけなければいけない、と考えがちです。ですが、実際は「これさえやっていれば人事制度が成功します」という絶対法則は無いと思っています。

それよりも人や組織に関する現状情報をとにかくいろんな切り口で見ていって、経営層や現場の社員にフィードバックすることで、彼らが判断できる材料を増やしていくことが大切だと思っています。「1つの法則を出すより、100の経営の判断材料を出していく」イメージですね。

—中小企業やベンチャー企業でも言えることだと思うのですが、経営層や人事から、社員のモチベーションを上げる方法はありますか?

サイバーエージェント独特の文化なのかもしれませんが「自分のやりたいことや意思表示を明確にすれば、必ずチャンスが回ってくる」というカルチャーがあります。そのため自分がしたい仕事をするには、まず声を発信することが必要だと、社員は認識しています。

中小企業やベンチャー企業でも、普段から対話を通して社員の声を聞き、仕事や役職を割り振る際に、できる限り本人の意思に沿った決断を下せるようにすると社員のモチベーションは高められるのではないでしょうか。

ちなみにサイバーエージェントでは、声の大きい人だけが目立たないように、自分のスキルを会社に対してアピールできる場である「MY PAGE」を年明けから始動しようと思っています。将来どんな仕事をしていきたいか、どういうスキルを持っているのか、社員が書き込むことで、データがMY PAGEに溜まっていく仕組みになっています。それを適材適所により生かせればいいなと思っています。

—そのカルチャーフィットする人材をどのように見極めているのでしょうか?

まず、面接は現場の社員が行っています。一緒に働くのは人事ではなく現場の社員ですし、それぞれの事業部の雰囲気に合っているかどうか、一緒に働きたいと思えるかどうかは現場の社員が一番わかるものです。そのため、新卒採用でも、面接回数は他社よりも多く、一人でも多くの社員に会ってもらったり、インターンシップを通じて社員や職場の雰囲気を理解したうえで入社してもらいたいと思っています。

また、「採用には全力を尽くす」というカルチャーがあるからこそ、全社員が採用に協力的です。特に社員へのインセンティブがあるわけではありませんが、社員も未来の仲間を採用することに前向きなんですよね。それが風土として成り立っているからこそ、採用に力を入れることが根付いています。

—現場の社員、現場担当の人事とコミュニケーションを取るときに、気をつけていることは?

私は特に人事の中でもデータ分析の部門にいるからということもあり、データとして情報はたくさん知っていても、実際の「現場感」に疎くなりがちなんです。実際の現場の課題や、社員が抱えている不安など、常にアンテナを張って収集するようにしています。具体的にはGEPPOに書かれた声を1つ1つ読んだり、現場の社員と対峙している人事担当と定例の場を設けて現場の課題を教えてもらっています。

—「いい情報しか上に上がらず、悪い情報が上がりにくい」という課題はどこの会社にもあると思いますが、サイバーエージェントさんがこれに対して何か対策していることはありますか?

これに関しては、GEPPOが一番機能しています。GEPPOはキャリアエージェントとCA8(取締役)のみ見られるので、現場の上司に言いにくいことや、そもそも会社に対して言いたいことも社員は率直に書いてくれます。ここで拾ったポジティブな声もネガティブな声も、必ず経営者層や現場に反映させるようにしています。

ーありがとうございました!

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